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2005年03月20日カテゴリー:ジャズ
E.S.T.(Esbjorn Svensson Trio):Seven Days of Falling
久しぶりに外出予定のない休日、しかも3連休なので、久しぶりに時間にゆとりを感じています(といっても家にへばりついてやらなきゃならないことがいろいろあるんですが(^^;)
で、ようやくE.S.T.の「Seven Days of Falling」についていたボーナスDVDのライブを見ることができました。
【E.S.T. / Seven Days of Falling】
来週24日に最新作「Viaticum」日本盤が発売されますが(輸入盤はすでに発売中)、この作品は2003年発表で、「Viaticum」を除けば現時点での最新作、ということになります。
すでにCDは何度も聴いているのですが、このCD、1925円なのに45分ほどのライブを収録したDVDまでおまけで付いてくるんですよ。
晴れて今日DVDも見ることができましたので、改めて取り上げることにしました。
このアルバムの前作に当たる「Good Morning Susie Soho」のレビューで書いたように、従来のジャズ・ピアノ・トリオの枠に収まらない、叙情的でありながら斬新で時にハードなサウンドは、この「Seven Days of Falling」も同様です。
相変わらず深くて澄んだピアノの音色と、エフェクトを多用したアグレッシブなベース・サウンド、そしてきめ細かで繊細さを感じさせる生ドラムと同居するリズム・マシーン、という基本フォーマットはそのままです。
しかし打ち込み系は前作よりも影を潜めていて、三者のナマの競合と融合とが、さらに進化している気がします。
ザッと全曲解説してみますと---
1. Ballad for The Unborn
イントロの最初のピアノの和音が響いた瞬間から、もうE.S.T.の世界に吸い込まれてしまいます。ゆったりとした三拍子。ECMではありませんが、まさに静寂の似合う音楽。シンプルなコードの連続の末に、最後間近のリフレインでディストーションの利いた重いベースが加わり、重層的な構造へと変化して幕を下ろします。
2. Seven Days of Falling
前半2拍のベース・リフと、後半2拍のドラムスの基本パターンから始まるタイトルチューン。E.S.T.らしく複雑な展開を見せる曲です。途中からフェード・インしてくるフィードバックのかかったヴァイオリン(?)やノイズ系のSE、ふと現れるダーティーな打ち込みドラム等々、背景音も実に印象的。静と動とがない混ぜになる感覚が魅力的です。
3. Mingle in The Mincing-Machine
クランチがかったシンバルと、歪みの利いたベース+低音弦のユニゾンピアノのリフからいきなり幕を開ける3曲目。アシッドかつポップな曲調とでも言えばいいでしょうか。これまたE.S.T.ならでは、といったユニークな曲です。
中盤のベースソロと、いつの間にかアップテンポの5拍子に変化したリズムの上で繰り広げられるピアノソロが面白い。ライブで盛り上がりそうな曲です。
4. Evening in Atlantis
続く5曲目のイントロとも言える55秒の小品。E.S.T.のピアノの美しさが前面に出ています。
5. Did They Ever Tell Cousteau?
前曲のエンディングにオーバーラップして始まるノリのいいドラミングに、ウッドベースが軽快で優雅なメロディーを奏でる5曲目。しかしこのままでは終わらないのがE.S.T.。
ピアノも絡んだ2度目のメロディーが終わると、ベースはロッキッシュなリフへと一転し、軽くコンプレッサーをかけたピアノがスピーディーなソロを展開。その勢いのまま最初のメロディーへと再度突入し、フェイザーのかかったドラムがフェード・アウトして曲が終わります。これまたライブで聴いてみたい一曲です。
6. Believe Beleft Below
技巧を省いたシンプルなバラード。美しいメロディーです。こういう素直な曲と、アーティフィシャルな曲とが混在して、なおかつ違和感を感じさせないのがE.S.T.の魅力でもありますね。
7. Elevation of Love
6/8のちょっと凝ったリズム・パターンに乗った、疾走感のあるナンバー。最初はちょっと奇妙なピアノのリフレインで始まりますが、実はこの曲はカッコイイ!
E.S.T.のピアノのタッチは基本的にキース・ジャレットに似ていると思うんですが、これは曲調やスピード感がどこかPMGを思わせます。ただピアノの音色は(たぶんコンプで)軽く歪ませているので、ライル・メイズの音色とは全然違いますが(^^;
上方へと駆け上がっていくようなピアノソロに続き、Aメロの背後でかすかに鳴っていたディストーション・ギター(ベース?)が大きくフィーチャーされて前面に躍り出てくるところがまた独創的でカッコイイ! E.S.T.の個性がよく出ているオススメ曲です。
8. In My Garage
これまた明るく軽快なナンバー。ガレージといってもあちらのは納屋というかちょっとした倉庫になっていますから、パット・メセニーやヴァン・ヘイレンよろしくバンドの練習をしたり、愛車の手入れをしたり、いろんな過ごし方がありますよね。休日のワクワク感を感じさせる楽しく小気味いい曲です。
9. Why She Couldn't Come
静かなピアノのイントロからブラシ・ワークのドラム、ベースが加わってきます。タイトルから想像されるように、振り返った過去から立ち上るとまどい、後悔、失望、諦念、といった言葉が浮かんできます。
そして曲が進むに連れてフェイザーのかかった風のようなSEが忍び寄ってきます。まるで強迫観念に強いられるかのように、執拗に同じリフを繰り返すベースの上で、ピアノは優雅に、哀しみの込もったソロを舞わせます。ドラム・ワークが徐々に熱を帯び、盛り上がったところでピアノがフッと和音を奏で、スッとエンディングを迎えます。
マイナー系の曲で暗い情念を感じさせながらも、その色一色に染まらないところにE.S.T.らしさを感じます。
10. O.D.R.I.P.
巨人が歩いているかのような大きなグルーブの4つ打ちのリズムの上で、軽く歪んだピアノがメイン・メロディを奏でます。ドラミングは徐々に荒々しさを増し、負けじとピアノもヒート・アップして、曲の空間がどんどん広がっていきます。それは巨大な建築物、しかも近代的な高層建築でもなければ古代の遺跡でもない、ちょうど荒んで朽ち果てていながら、なおかつ圧倒的な存在感を放っている、名もない廃墟を思わせます。
また、前作同様このアルバムには最後に隠しトラックがあります。
クレジットされていないこの曲は「Love is Real」。
6曲目の「Believe Beleft Below」のボーカル・バージョンです。
詞を付けてボーカルを取っているのはジュシュ・ヘイデン。そう、あのチャーリー・ヘイデンの息子です(余談ですが彼はパット・メセニーとチャーリー・ヘイデンの「Beyond The Missouri Sky」の最後の曲、「Spiritual」の作曲者でもあります。)
ちょっと線が細く、ややハスキーで甘いジョシュのボーカルが、この曲のメロディーの美しさをさらに引き立てています。エピローグにふさわしい、心安らぐ一曲です。
ということでこれがCD。
さらにボーナスDVDには、2000年12月10日のストックホルムのライブから
1. Good Morning Susie Soho
2. From Gagarin's Point of View
3. Definition of A Dog
4. Dodge the Dodo
の4曲と、インタビュー、「From Gagarin's Point of View」のプロモビデオ、フォトギャラリーが収録されています。
まあなんつってもゴツくて体格のガッシリした、強面の野郎3人組ですから(笑)、ビジュアル的には楽しいってものでもありませんが(笑)、ライブは迫力あります。アドリブソロも盛り上がりますし、CDのあの音空間もかなり再現していました。
ディストーションかけたウッドベースのボウイングとか、ピアノの中に手と頭を突っ込んで、弦に触れながらピアノでハーモニクスを出したりと、「あ、こうやってたんだ」というサウンドメイキングの発見もあったりして、非常に楽しかったです。いや~、ホントにライブのチケット取れて良かった(^^)
これで1925円は絶対安いですよ。興味のある方はぜひ聴いてみて下さい。
前作を聴いた時から、「E.S.T.の世界観は何かに似てる」とずっと思ってたんです。今回これを聴いてやっとそれがわかりました。
誰もこんなこと言わないかも知れませんが、実はレディオ・ヘッドに似てませんか?(^^;
曲が似てるとかパクッてるといった意味ではなく(笑)、なんというか、表現の底にあるものが、「終末後の世界」という気がするんです。破壊の美と失われたものへの愛惜。ともに耽美さと危うさを内包していますが、彼らの曲の中で紡がれている「美」は「滅び行くものの美」ではなく、「滅んでしまったものの美」なんですよね。それが斬新さ、時代を一歩抜きんでたところだと思うんです。
非常に抽象的ですが、E.S.T.もレディオ・ヘッドも、一度世界の終わりを経験した者たちの音楽であり、それがまさに今の世界の同時代性を感じさせる理由なのではないか、という気がしてなりません。
DVDのインタビューの中でも、「自分たちの音楽がジャズかどうかなんて気にしてない」といった発言がありました。その通りだと思います。だからレディオ・ヘッドの好きな人が聴いたらどんな感想を持たれるか、ぜひ聞いてみたい気がします。
ジャズとかロックなんて関係なく、このブログによく来て下さってる、「音楽の好きな方」にオススメしたいバンドです。
投稿者 Kota : 2005年03月20日 15:30
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コメント
紹介ありがとうございます。さっそく注文してみました。ちゃんと、アフィリエイトになっていると思いますよ〜。レディオヘッドも大好きなバンドなので、このアルバムも楽しみです。
投稿者 taknom : 2005年03月20日 18:58
taknomさんこんばんは!
ご無沙汰してすいませんでした!
> さっそく注文してみました。ちゃんと、アフィリエイトになっていると思いますよ〜。
ありがとうございますm(__)m
> レディオヘッドも大好きなバンドなので、このアルバムも楽しみです。
私の独断なので、「どこがレディオヘッドやねん!」と思われたらすいません(^^;
でもレディオヘッドが好きだったら、結構馴染める世界だと思うんですけど・・・もしお気に召しましたらtaknomさんのブログの方でも感想を上げてやって下さい。
もしお気に召さなかったら・・・責任とって買い取った方がよろしいでしょうか?(^^;
投稿者 Kota : 2005年03月21日 01:15
kotaさんこんばんは。レビューを興味深く拝見しました。特に
>表現の底にあるものが、「終末後の世界」という気がするんです。
という部分にいたく共感致しました。
喪失感というか、諦観のような・・絶望と言ったら言い過ぎな、何か重たくて悲しいものと、それを否定しないポジティブな部分が見え隠れするんです。一人で車で聴いていると、時として切ない気持ちが呼び覚まされます。
ところで新譜のViaticum、輸入盤で聴いているのですが、このあたりの感覚がいまいち自分のものになっていなくて、レビューを書きあぐねている状態です(笑)もう少ししたら、書いてみます。
投稿者 tar_ks : 2005年03月21日 23:26
tar_ksさんこんばんは。コメントありがとうございます!
> 喪失感というか、諦観のような・・絶望と言ったら言い過ぎな、何か重たくて悲しいものと、それを否定しないポジティブな部分
そう、まさにそんな感じですよね。
絶望といったら言い過ぎ、しかし決して満たされない何かがあり、そしてそれを否定したり、安易に身を委ねるのでもない抗いの意思。彼らの音楽を聴いていると、そんな言葉が浮かんできます。
Viaticumは手強そうですね。
私は一応24日の日本版の発売を待って、中身と値段とで輸入盤とどちらを買うか決めようと思っています(^^;
tar_ksさんのレビューは本気で期待してしまう文章で、しかもその期待を裏切られたことがありません。仕上がりがいつになっても構いませんから、ぜひお書きになって下さい。
それでは!
投稿者 Kota : 2005年03月22日 00:12
Kotaさんどうも!ご無沙汰してます。詳細な全曲レビューすごいですね!頭が下がります。
E.S.T.とRadioheadの見えない糸、なるほどと思いました。鋭い!アイヴァン・オールセットや二ルスペッターモルベルなんかの北欧系ジャズの人の出す音は、何か「そこ」に収斂していく感覚がありますね。ちなみに、E.S.T.は2003年の7月にはKOTAさんの好きなパット・メセニーとも共演してますね(^^)
ライブ・・・いつでしたっけ?チケット買い忘れてました…(ToT)
投稿者 ahinama : 2005年03月23日 01:59
ahinamaさんこんばんは!
お越しいただきましてありがとうございます!
> E.S.T.とRadioheadの見えない糸、なるほどと思いました。鋭い!
そう言っていただけるとホッとします(^^;
自分の中ではとても自然に繋がっているのですが、果たして世間一般はどんなもんなんだろう? と非常に不安でした(^^;
> ちなみに、E.S.T.は2003年の7月にはKOTAさんの好きなパット・メセニーとも共演してますね(^^)
そうなんですよねぇ。なんとかこの時の音源が手に入れられないかと現在画策中(笑)
> ライブ・・・いつでしたっけ?チケット買い忘れてました…(ToT)
6月です!
席にこだわらなければ多分まだ大丈夫かと思いますが、ダメかな?(笑)
投稿者 Kota : 2005年03月23日 02:09
> そうなんですよねぇ。なんとかこの時の音源が手に入れられないかと現在画策中(笑)
Skypeとかで送りましょうか?(笑)良い音源です!詳細はメールください!
投稿者 ahinama : 2005年03月24日 00:40
ahinamaさんどうもです!
> Skypeとかで送りましょうか?(笑)
さすがにウチの回線ではムリかと(^^;
お言葉に甘えて後ほどメールさせていただきます。
では!
投稿者 Kota : 2005年03月24日 09:39