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2005年04月15日カテゴリー:音楽
松任谷由実:水の影(時のないホテル)
昨日夕飯時にテレビを回したら、NHKで世界遺産の番組をやっていました。
取り上げられていたのはモロッコのフェズ。細い路地が入り組んだ「迷宮都市」として有名な街です。
ここも生きてるうちに絶対一度は行ってみたいところなので(「死んだら行けるわけねージャン、っつーツッコミはなしね(笑))、興味深く見ていました。イスラム建築やアラベスクの装飾が好きなので、スペインのアルハンブラ宮殿でもじっくりと見てきましたが、このフェズの王宮もものすごかったですね。これで路地散策とフェズの王宮が、旅先の「マイ・ウィッシュ・リスト」上位に食い込んできました(笑)
番組のエンディングは、小高い丘からフェズの街を一望する映像を映し出していました。「アルハンブラから見下ろすサクロモンテやアルバイシン地区の風景みたいだな」と感慨に耽っていたら、突如聴き覚えのあるエレピ・サウンドの和音が二つ。
「ん? これってユーミンの『水の影』のイントロそっくりじゃん! おいおい、すんげーパクリだな、こりゃ!」と思っていたら、パクリじゃなくてそのもの、ちゃんとユーミンの歌が入ってきました(笑)
この手の番組は大体オリジナル曲を用意してるもんだ、と思い込んでいたので、まさかまんまユーミンの曲を、しかもこんな昔の、シングルカットもされてない曲を持ってくるとは思ってもいませんでした。
で、この「水の影」が収録されているのがこちら、1980年発表の「時のないホテル」。
【松任谷由実:時のないホテル】
これも死ぬほど聴きました(笑)
まあ人並み以上にユーミンにもどっぷりハマったわけですが、私はこの辺からがリアルタイムだったこともあり、この「時のないホテル」を含めて前後のアルバムは本当によく聴きましたねぇ。
これにはいわゆるヒットシングルはありませんが、文字通りレコードが擦り切れるほど聴いた一枚。もちろん後にCDで買い直しました。中でもこの「水の影」は大好きな曲で、自分にとってはユーミンの曲ベスト5には入るかな? ま、日によって変わったりしますが(^^;
ということで、今回もまた長い前フリ、かつ、「オレはスペイン行ったんだぜー」と何気にチラチラ自慢もしているイヤミったらしい前フリですが(笑)、今日は思いがけず数年ぶりに再会したこの曲を、取り上げてみたいと思います。本当ならアルバム丸々取り上げてミッチリ全曲紹介したい気もするんですが(^^;、さすがに時間と体力、労力、時の運?(笑)等もあり、今回は「水の影」中心にしたいと思います。
とはいえせっかくですのでまずは曲目リストから。
1. セシルの週末
2. 時のないホテル
3. Miss Lonely
4. 雨に消えたジョガー
5. ためらい
6. よそゆき顔で
7. 5cmの向う岸
8. コンバートメント
9. 水の影
さらにせっかくですので各曲についてサラッと一言コメントを(^^;
1.の「セシルの週末」は、先日取り上げたパラシュートの松原さんのギターが、ノッケから存分に堪能できるミディアム・テンポの曲。
このアルバムの特徴のひとつは、各曲のストーリー性が高く、ちょうど別々の主人公の短編小説を、一冊にまとめたかのような構成になっていることです。
で、この曲は、まあ「仕事一筋の父と浪費癖のある母が不仲で別居している家庭の娘が、寂しさから若い頃はいろいろ悪やってグレてたけど自分を素直に愛してくれる男性の出現とプロポーズによって真っ当な女性へと生まれ変わる話」と、身もフタもない要約をすればこういう歌詞です(笑)
個人的にはちょっと歌詞が作り込み過ぎで、モデルが定型的かな、という気もしないでもないですが(^^;、5分半ほどの曲でこれだけのストーリーをきちんと語り、なおかつ主人公の女性を魅力的に思わせる力量はさすがという気がします。さだまさしが書いたら歌詞8番ぐらいまで行きますよ、きっと(笑)
曲的には大き目なノリが心地よく、やはり松原氏のギターが圧巻で、特にイントロはスケールの大きさも感じさせ、ライブのオープニングにはもってこいだと思います。実際この時のライブはこれがオープニングじゃなかったかな? アルバムの巻頭を飾るにふさわしい名曲だと思います。
なんか全然「サラッと一言コメント」になってない気がしますが(^^;、あまり気にせず次行ってみよう、次!(笑)
2.のタイトル・チューン「時のないホテル」はかなりコンセプチュアルな曲。AメロはAMラジオ風のフィルターをかけてサビと対比させ、多層化した時空を感じさせます。
スパイ、戦争、革命、謀略・・・そんなイメージが見え隠れしますが、「ホテル」ということもあり、歌詞のラストはやはりイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」を連想させたりもします。エンディングに変拍子を持ってくるアレンジはさすがです。
3.の「Miss Lonely」も色調が2と似ている気がします。グレーや茶、ベージュが基調の歌、という感じです。やはりテーマは「時」。ユーミンにしては珍しく、歌詞の背景に2同様「戦争」を持って来ています。
4.の「雨に消えたジョガー」もストーリー性の高い曲、陸上選手の彼氏が白血病で死んじゃう女子高生の物語。いわゆる青春スポ根病死モノで、見ても読んでもいないけど「セカチュー」の男女入れ替わり版、ってなとこでしょうか?(笑)
ま、そういいつつ若い頃は結構「ジーン」ときてましたが(^^;
白血病を「ミエロジェーナス・ロイケミア」とドイツ語でしか表記してない点や、彼氏の病名を知った時の彼女の様子を「図書館の椅子はひどく冷たく・・・」としか描写してないことに、作詞家としての力量を感じます。これまた松原氏のギターが印象的です。
5.の「ためらい」はちょっぴりお年を召された女性(婉曲表現(笑))の、新しい恋愛に直面した時の心の波風を取り上げた曲。イザという時、こういう女性は恐いかも、と感じるのは私だけでしょうか?(笑)
曲の前半部は、7.の「5cmの向こう岸」やその他の多くの曲同様、女性のコンプレックスと、自分の内面と周囲の視線との「差」、そこから生じる葛藤をうまく掬い上げてると思います。ここら辺の技術がやっぱり彼女の真骨頂という気がしますね。
6.の「よそゆき顔で」も、「自分が見た自分」と「人が見た自分」とのギャップ、そして「過去の自分」と「今の自分」とのギャップについての歌。女性はこの曲を「わかる、わかる」と受け止める人が多いようですが、男の私もこれは結構「わかり」ます(笑) 男にもいろんな顔があるもんなんですよ(笑)
で、7.の「5cmの向こう岸」。来たよ、来ましたよ(笑)
これはもう大っ好きな曲です(^^ゞ
テーマはやはり「他人の視線」です。自分より5cm背の低い彼氏と、好き合っていたのに周囲のからかいと好奇心の目に耐えられずに別れてしまう、という内容。
曲調はゆったり目のテンポで、かわいらしく、明るいポップな曲調です。歌詞もちょっとコミカルな表現を織り交ぜていますが、その裏で十代の心の揺れをきっちりと描写し、失ってしまったものを惜しむ気持ちをしっかりと伝えている名曲です。
切ないッスねぇ(笑) 自分はこれ聴くと本当にいつも切なくなります(^^;
あんなダンスは二度とできないねこの一行に、失われた青春への愛惜の想いが凝縮しています。
そして大作、8.の「コンパートメント」。
まあ暗い曲調で、ちとキツイかも(^^;
それもそのはず、これは睡眠薬自殺を図った女性の、服毒直後から死に至るまでの意識の変化を歌った曲です。
厳かなピアノのアルペジオが印象的な幻想的な曲で、主人公である女性と、「死の国」へと向かう列車の車掌との会話をSEで入れるなど、曲の雰囲気は十分に整っているのですが、やはり歌詞先行で、ストーリーは展開するが音楽的な展開、発展がないところが、少々残念な気がします。
とはいえ曲の頭から終わりまで通して聴くと、やはり旅をしたかのような移動感を覚えます。そして時間の感覚が妙に変化したかのような錯覚も。
人はどんなに長い夢を見ていたつもりでも、実際の時間はわずか数秒だ、とはよく言われますが、この曲もまさに長かったような、でも一瞬であったかのような、不思議な時間感覚にとらわれます。意欲作にして異色作、でしょうか。
さて、ようやくたどり着くことができました(^^;
アルバムのラストを文字通り飾っている「水の影」。
やさしく、美しい曲です。
本当なら歌詞を丸ごと載せるだけで後は何も言わなくてもいいんですが、それやると著作権とかメンドくさそうなので(笑)、最小限の「引用」に留めておきます(^^;
テーマはやはり「時間」、そして「移動」です。
先の「コンパートメント」は生から死への移行を「列車の旅」に例えることで、意識の変容する束の間の時間を拡大して描写したのに対し、「水の影」は
時は川
きのうは岸辺
という歌詞からも明らかなように、時間そのものを旅すること、「時の移ろい」そのものがテーマで、また移動手段も「列車」から「川のゴンドラ」と、やさしく穏やかな比喩へと一変しています。
「水の影」の「影」とはShadowのことではなく、「像」のことですよね。
移ろいやすく常に揺らいでいる、水面に映った自分の姿のことです。
それは自分が見た自分の姿であると同時に、自分そのものはない「幻」とも言えます。
このアルバム収録曲のいくつかが「他人の目から見た自分」と「自分から見た自分」との問題を扱っていますが、最後の「水の影」で、どちらも本当であり、またどちらも幻である、と言っているかのように思えます。
そして「幻」でもあり「真実」でもある自分に向かい、
よどみない浮き世の流れと誓います。
とびこめぬ弱さ責めつつ
けれど傷つく
心を持ち続けたい
「弱さを持ち続ける」という強い決意。
この逆説的な祈りのような一節に、いつも深い感銘を覚えます。
・・・ふう。
時間ギリギリ、今日のうちに書けたでしょうか?(^^;
まさかこんなに長くなるとは思ってませんでした(^^;
後で手をいろいろ入れそうな気がしますが、ひとまずこの辺で。
投稿者 Kota : 2005年04月15日 23:58
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コメント
実は私もこのNHKの番組、第1回目から見てます。
ユーミンが使われていた事には驚きました。しかもこんなマイナーなアルバムから!
ユーミンのアルバムの中ではかなりマニアック&マイナーな作品ですが、個人的にはこの空気感・・・好きです。
この時期に「白日夢」というアルバム未収録のシングルも出してましたっけね。
このアルバムがイマイチのセールスだったので慌てて「Surf & Snow」を出したというウワサも・・・。
ま、前作がそこそこ売れただけに焦るのも無理ないか。
NHK的には「中島みゆき/地上の星」と同じ成功を目指してるのかも・・・ね?
投稿者 Musicman : 2005年04月16日 00:39
Musicmanさんこんばんは!
こちらにもコメントわざわざどうもです!
> 実は私もこのNHKの番組、第1回目から見てます。
あ、もう何回もやってる番組だったんですか!
私は昨日初めて見ました。
> ユーミンが使われていた事には驚きました。しかもこんなマイナーなアルバムから!
ですよね!
きっとスタッフにファンがいたんでしょう(笑)
> 個人的にはこの空気感・・・好きです。
個人的にはかなり好きです(^^ゞ
> この時期に「白日夢」というアルバム未収録のシングルも出してましたっけね。
ん~、これはわかんないです(^^;
聴けばわかるかな?
> このアルバムがイマイチのセールスだったので慌てて「Surf & Snow」を出したというウワサも・・・。
なるほど!
初耳ですが、かなり信憑性ありそうですね(笑)
> ま、前作がそこそこ売れただけに焦るのも無理ないか。
前作というと「悲しいほどお天気」ですね。
あ、これは売れたんですか。
売れ行きに関係なく聴いていたので世間的な評価がよくわからないのですが、確かに名曲揃いの名盤ですもんね。
> NHK的には「中島みゆき/地上の星」と同じ成功を目指してるのかも・・・ね?
うーん、「地上の星」は中高年サラリーマンが番組の登場人物と自己同一化を夢見ながらカラオケで熱唱したからあそこまでヒットした、という気がしてるんですが(笑)、これはどうなんでしょうねぇ?(笑)
ま、ヘタにカラオケなんかでそこらのオッサンに歌われるぐらいなら売れなくて全然構わない、と個人的には思いますが(笑)
ではまた!
投稿者 Kota : 2005年04月16日 01:29
「水の影」で検索するとこちらのページが。
私も世界遺産であらためていいなと思いました。
ユーミンはカジュアルだけど、ノーブルで気品がある。
普通のPOPSで終わらない深さがあります。
「水の影」は特にそう思わせます。
そして、このアルバムで私がもう1つ好きなのは
「セシルの週末」です!
ニヒルで、あまのじゃくで気まぐれ、でもほんとは
とっても素直な女の子を思わせる。
これはまさしくユーミンだし、ずっとこんな女の子で
ありたいと思わせてくれる、かわいい曲…U・ω・)ノ
・・突然の書き込み、失礼しました。。
投稿者 まみ : 2011年02月14日 21:10