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2005年02月14日カテゴリー:ボブ・ディラン

ボブ・ディラン:欲望

今日から私のメールボックスに「SPOILER」という単語で始まる件名のメールがドンドン届き始めています。

SPOILER:ネタバレの意

昨日、ペンシルベニアでパット・メセニー・グループの「The Way Up」ツアー第一発目のライブがあったんですね。

そして海外のPMG-MLでは、「ライブについての情報を投稿する時は、件名に必ず"SPOILER"ネタバレと付けてくれ! でないとライブ行く前に曲目がわかってしまうから」という申し合わせがあり、その結果この「ネタバレ」メールがバンバン届いている、というわけです。

もちろん私も東京公演2連チャンで行きますから、このネタバレメールは開封しません。
しかしこれから毎日毎日これが届くかと思うと、ちょっと拷問に近い気もしてきます(笑)
「見たいけど見ちゃいけない!」浦島太郎も誘惑に負けて玉手箱開けましたしねぇ・・・

もし私がメールを開封してセットリストを知ってしまったら、すぐさまここにアップして・・・なんてことだけは絶対しませんのでご安心を(笑)

え〜、前置きが長くなりました。

macさんがストーンズの「Stripped」にコメントしてくださっていた中で、ディランの「欲望」への言及があり、そのレスを書いているうちに自分の中で「欲望」を紹介したい欲望(笑)が盛り上がってしまいましたので、取り上げたいと思います。

【Bob Dylan / Desire】
Bob Dylan / Desireえ〜と、名作です。

世紀の大傑作です。

以上、コメント終わり。

と言って片付けたいくらい、もう何も言うことのない素晴らしい作品です。

ディランのアルバムはざっと数えても40枚以上ありますが、これをベスト1に挙げる人も少なくないでしょう。私自信はかなり悩みますが(^^;、それでもベスト3には入れますね。

ディランというと「フォークの神様」とか反体制の貴公子とか芸術的な歌詞を書く正真正銘の詩人とか、いろいろと音楽以外の形容詞で語られることも多いですが、単純に彼の音楽そのもので最初にガツーンとやられたのがこの「欲望」と「ブロンド・オン・ブロンド」でした。

まず一曲目からいきなり「Hurricane」です。どうします、「Hurricane」ですよ?(笑)

これはとても有名ですが、実話に基づいた曲です。
「Hurricane」とは実在する黒人ボクサー、ルービン・カーターのニックネーム。

彼は世界チャンピオン間違いなしと言われるほどの実力者でありながら、ニュージャージー州の殺人事件の容疑者として逮捕、収監され、ボクサー生命を絶たれます。

今以上に人種差別の激しかった60年代のアメリカで、警察はこの黒人を有罪にすべくあらゆる証拠をでっち上げます。

明白な冤罪事件でありながら、無実の罪で刑に服しているハリケーン。

そんなアメリカの不正義への強烈な怒りを、これでもかというぐらいの激しさで歌い上げたのがこの曲です。

もう「正義を我らに!」みたいな抽象的なメッセージだけじゃないんです。歌詞には事件の経過から警察の逮捕、勾留までが実に具体的に描写されていて、警察とグルになって偽証した目撃者の名前まで実名で出てきます。そしてこういった具体性を積み上げて、最後には「正義がただのゲームになり下がった国に生まれたなんて、これ以上恥ずべきことがあるか!」とまで言い切ります。

怒りという感情を、歌という形でこれほどまで見事に具体化できるなんて、という驚きを感じました。

そしてそんな背景や歌詞の意味が全く分からなくても、この曲はカッコいいんですよ。そこがスゴイと思います。曲がいいんです。メッセージに寄りかかっていない。

ちなみにこのハリケーンことルービン・カーターは、19年間の獄中生活、22年間の法廷闘争の末、無罪を勝ち取ります。その経緯は「ザ・ハリケーン」というタイトルで映画化され、デンゼル・ワシントンが主役を演じました。この映画も名作です。

さて、「ハリケーン」で盛り上がってしまいましたが、アルバム「欲望」はまだまだ名曲が目白押しです。

2曲目の「Isis」。これまた好きなんですよ。ちょっと不可思議なムードを持った曲ですが、ヴァイオリンのメロディーと共になんとも言えない味を出しています。

macさんもおっしゃられてますが、このアルバムを語る際に絶対欠かせない要素がエミルー・ハリスのボーカルと、スカーレット・リベラのヴァイオリンです(兄ちゃんじゃなくて女性です(^^;)。

この曲に限りませんが、ヴァイオリンがロックとこんなにカッコ良く融合するなんて! という見本とも言える作品です。

続く「Mozambique」は明るくノリのいい曲。サビの最後でつい一緒に「マジカラマジカラ〜!」と歌ってしまいます(正確な歌詞は「Magic in a magical land」)

そして「One More Cup of Coffee」。これまた名曲ですよ。もうほんとにどうしましょ!
このダルな雰囲気、切なげなメロディーに意味深な歌詞。しみじみと来ますねぇ〜。
今でもときどきライブでやっているようですが、いや〜、いい曲です。

ちなみに5分の3ほど私に似ていると言われる井上陽水が(笑)、この曲を反歌として「ミス・コンテスト」を作った、という一文が沢木耕太郎のエッセイにあるんですが、具体的なことは何も書かれていなかったと記憶しています。確かにコード進行はかなり近いと思うのですが、詳しいことをご存知の方いらっしゃったらぜひ教えてください。

次の「Oh, Sister」もいいですね。ちょっとゆったりしたテンポで語りかけるような歌い口が心地いいです。でも歌詞の最後は「You May Not See Me Tomorrow」 - 明日になればもうオレとは会えないかもしれないんだから - と、ちょっとドキッとさせる内容です。私はなぜかこれが「死別」に思えてしまうんですよねぇ。

さて、「Joey」です。もうバカの一つ覚えですが、名曲です(笑)
ストリート・ギャングを歌った歌ですね。ちょっと長目の曲ですが、主人公「Joey」の半生を綴った歌です。こういうストーリー・テリングものを歌わせたらディランはホントにうまい。もうあきれるぐらいうまいですね(笑)
サビの「Joey, Joey, What made them want to come and blow you away?」が重く胸に残ります。

それから「Romance in Durango」「Black Diamond Bay」と続くんですが、なんかキリがなくなりそうだから割愛して、最後の「Sara」に行っちゃいます。

Sara。ディランはラブソングの名曲も数多いですが、私はこれが一番好きかなぁ。
Saraはディランの2番目(だったかな?)の奥さんの名前。

もうね、悲しい曲なんですよ。切ない歌なんですよ。

歌詞の内容は悲恋でも失恋でもなく、相手への想いを切々と歌っているだけなんですが、これがなぜか非常に切ないんですよ。実際曲調も思い切りマイナー調で、これまたヴァイオリンの哀しげな音色がニクイくらい効いているのですが。

ディランとサラは実際翌年に離婚してしまうので、別れの予感が影を挿しているのかもしれませんが、恋が成就しようが破れようが、結局人を愛するという感情というのは、本質的にとても悲しいものであって、この歌はそこに直接根ざしているんじゃないか。柄にもなく、この曲を聴くたびにそんなことを思ったりもします。

というわけで、じっくりなのか駆け足なのかよくわからない「欲望」の感想ですが、どんなもんでしょう。

とにかく要するにこれは傑作だ、ということさえ知っておいていただければ十分でございます(笑)
興味のある方はぜひ一度聴いてみてください。

投稿者 Kota : 2005年02月14日 17:56
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コメント

すっかり、はまって毎日来てますが

PMG-LM自分も登録しているのですが、なぜか来ない…(笑)

自分は前もって見るの抵抗無い派なので、読んでみたいのですけどね(笑)

>スカーレット・リベラのヴァイオリンです(兄ちゃんじゃなくて女性です(^^;)。

女性でしたか(笑)それは知りませんでした。まぁ、参加することになったエピソードは知っておりますが…

いや、しかしこのアルバムは確かに名盤なので、多くの方に聞いてもらいたいですね。

「Hurricane」や「One More Cup of Coffee」は自分かなり好きです、いやほんと名曲ですよね。

関係ないですが、THE WAY UPのスコア発売されているみたいですけど、欲しいですね。しかし、海外購入は面倒ですが…

では、またです。

投稿者 mac : 2005年02月14日 23:29

> すっかり、はまって毎日来てますが

ずっとはまり続けてくださることを切に願っております(笑)

> PMG-LM自分も登録しているのですが、なぜか来ない…(笑)

あ、もしかしたら登録されているのはPMG-LNのMLではないですか?
あれは公式なので、新譜発売やツアー開始、程度のお知らせしか来ません。

私が言っているのはファンが運営しているもので、Yahoo! Groupの中にあるヤツです。

http://launch.groups.yahoo.com/group/pat-metheny2/?yguid=6861840

もう毎日「SPOILER」が届くので精神衛生上よくないです(笑)
食事を目の前に出されて「待て」と言われる犬のつらさがよくわかりました(笑)

> 関係ないですが、THE WAY UPのスコア発売されているみたいですけど、欲しいですね。

あ、ホントだ!
2月から、というのは知ってましたが忘れてました(^^;
情報ありがとうございます。
これで今日のネタが一つ確保できた(笑)

> しかし、海外購入は面倒ですが…

自分は「Pat Metheny Song Book」も海外輸入しましたが、それほど面倒ではなかったですよ。

ただ届くまでに時間がかかるので、すっかり忘れた頃に届いて「なんだこれ?」と、テロリストの郵便爆弾が来たような気がして不安にはなるんですが(笑)

投稿者 Kota : 2005年02月15日 11:09

「Desire / 欲望 」 イイですよネ。「Blood On The Tracks / 血の轍 」 と並んで好きなアルバムです。
やはり、"Hurricane" と "Sara" が圧倒的!!
スカーレット・リベラが参加して、"Hurricane" 等を演奏していたライブ盤を遠い昔に聞いたような記憶が...
思い違いだったら、ゴメンナサイ。

投稿者 慎@Musiclip : 2005年02月15日 16:25

慎さんこんにちは。ちょこっとお久しぶりです。
コメントありがとうございました!

> 「Blood On The Tracks / 血の轍 」 と並んで好きなアルバムです。

うーん、「血の轍」も最高ッスよねぇ!(^^)

> スカーレット・リベラが参加して、"Hurricane" 等を演奏していたライブ盤を遠い昔に聞いたような記憶が...

公式だと「The Bootleg Series, Vol. 5: Bob Dylan Live 1975 - The Rolling Thunder Revue」になりますね。「ブートレグ・シリーズ」という名の公式盤です(笑)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006NT3H/undertheredsk-22/ref=nosim

でもこれって発売は2002年ですから、そんなに遠い昔ではないですよね(笑)

たぶんブートじゃないでしょうか。「ローリング・サンダー・レビュー・ライブ」の名でビデオもCDも死ぬほど出ていましたし、このツアー以外で「Hurricane」をライブでやったことはないと記憶してますので。

そもそも75年のライブの公式盤が2002年に出る、っていうのが遅すぎだと思うんですけどね(笑)

Musiclipさんの方は最近私が入っていけるエントリーがないので黙ってますが(^^;、毎日ちゃんと見させてもらってます。

これからもよろしくです!

投稿者 Kota : 2005年02月15日 16:52

トラックバックさせてもらいました!

> ディランとサラは実際翌年に離婚してしまうので、別れの予感が影を挿しているのかもしれませんが、恋が成就しようが破れようが、結局人を愛するという感情というのは、本質的にとても悲しいものであって、この歌はそこに直接根ざしているんじゃないか。柄にもなく、この曲を聴くたびにそんなことを思ったりもします。

ぼくの方はあんまり哲学的(?)じゃないんですが、これからよろしくお願いします。

投稿者 ソウルマン : 2005年04月11日 14:21

ソウルマンさんこんにちは!

トラックバック&コメント、どうもありがとうございました!

> ぼくの方はあんまり哲学的(?)じゃないんですが、これからよろしくお願いします。

ソウルマンさんのブログ行って「欲望」のエントリー、読ませていただきました。

いやー、面白かったです!

というかとても共感しました。ディランの声、いいですよね。

「ディランを語る」となるとどうしても歌詞の解釈が幅を利かせる歴史が長かったように思うのですが、自分は(歌詞がわからないせいもありますが(笑))、自分は「音楽」として好きだし、「音楽」としての魅力を伝えられればなぁ、と思っています。

ですのでソウルマンさんの文章は非常に共感できました!

今からそちらにもコメントに行きますんで(^^;、よろしくお願いします!

投稿者 Kota : 2005年04月11日 15:24